光が差し込む岩滝ふれあいセンターの調理室からトントンとリズミカルな包丁の音が聞こえてきます。「そっちはどう?」「鶏、焼き始めるね」「誰かお米してくれる人~」なごやかにおしゃべりしながら、あっという間にごちそうが出来上がっていきます。今日の献立はしょうがご飯に鶏肉の照り焼き、スパゲティサラダ、チンゲン菜としめじの和え物。「美味しいよ」と皆さんの笑顔が弾けます。
給食ボランティア「あじさい」は昭和56年11月に立ち上がり、今年で39年を迎えます。65歳以上の高齢者で一人暮らしのお宅に年11回お弁当を届けており、地産地消と無事故が自慢です。そんな長く続く活動の魅力と秘訣について創設メンバーの笹岡会長と柴山さん、荻野さんにお話を伺いました。
昭和56年、岩滝町社会福祉協議会にボランティアバンクが設けられると同時に、広報にて各種ボランティア活動への登録募集が行われました。当時の局長から「ボランティアグループを作ってもらえないか」という声かけがあり、岩滝町婦人会の役員24名で「何ができるのだろう」と話し合ったそうです。皆で色々と意見を出し合った結果、「一番取り組みやすいのは食事かな。一人暮らしの高齢者の方に美味しいご飯を届けよう」ということになり、年末のおせち料理の配食から始まりました。
最初は25人で始まった活動ですが、今は44人で取り組んでいます。友人たちに「あんたも来いな、楽しいで」「知らない料理も教えてもらえるで」と呼びかけ、仲間が増えています。本日は新人さんが一人参加されていたので声をかけると、「タイミングよくメンバーの方に誘っていただき、何か人のために出来たらと思って参加してみました。皆さん素敵な人ばかりで楽しかったです」と話してくれました。常にアンテナを張って仲間を探し、楽しさを伝えて参加の一歩を後押しする。その鮮やかな手腕がボランティアの増える理由なのだと気付かされました。
作られたお弁当は、別のボランティア団体(上半期は「長寿会」、下半期は「運転ボランティアでんでん虫」)に配達してもらいます。「美味しいって言うとんなったで」とか、岩滝ふれあいセンターに来られた方が「美味しいって喜んどられたで」と教えてくれることもあり、この「美味しい」がなにより嬉しく「やりがい」になって続けてこられたそうです。毎回お弁当に添えられるお便りや掛け紙の俳句、さし絵も喜ばれています。
「運転ボランティアでんでん虫」の配達に同行しました。お弁当を受け取った糸井さんが「季節に応じたお弁当。食べたいなあと思っていたら料理に入っていて驚きます。見た目は良いし、量はちょうど。楽しみしています」と喜ばれていました。
お弁当の配達時に留守の場合はその夜、担当者が安否確認をしています。「あじさい」の活動は食事を作るだけでなく安否確認も兼ねているのです。
やっぱり気になるのは、活動を長く続けて来られた”秘訣”ではないでしょうか。もう少しお聞きしたところ、「皆をそれとなく引っ張っていくリーダーの存在は大事。『良いリーダーは次のリーダーを育てる』と教えてもらい、それを先輩たちから受け継いできました」と言っておられました。また、人を育成するだけでなく体制づくりもされています。当初は献立を創設者メンバーの栄養士の方が一人で作っておられましたが、現在は3人の献立委員が考えています。3班の班にはそれぞれ班長、副班長があり『どんなことでも皆で協力して』活動できるような工夫や、『人を育てること』を意識されていることが長く続ける”秘訣”なのではないでしょうか。
今後の活動については「やっぱりずっと続けて行きたいね。まずは40周年、次は50年、60年…。今は無料でお弁当を届けているので、できればそれも継続出来たらなあ」と言われていました。また、「ボランティアをやって良かった、仲間になれて良かった、絆ができて一生の友になれて本当に嬉しい」と言われ、この仲間の存在は自分の財産なのだと誇らしげな皆さんの笑顔が印象的でした。
あじさいは小さい花が集まって一つになり大きな花「あじさい」となるところから、一人ひとりが輝き仲良く結び合い、あじさいのような大きな花を咲かせたい!との願いをこめて命名しました。その名前のとおり、色々な思いを引継ぎ新しい人を呼び込み、昭和、平成、令和と時代が移り変わる中、39年間お弁当を届けてきました。ボランティアと利用者が笑顔の花を咲かせ、時代が移っても変わらない絆と温かさをこれからも持ち続けるだろうと感じました。