かつては丹後ちりめんで栄えた与謝野町旧加悦町エリア(地域)。その中心に建つ町立加悦社会福祉センターの一室で、「耳みにサロン」は開かれています。参加者からは「居場所ができた」と感謝の言葉が寄せられています。
難聴者の切実なニーズを拾い、スタッフの養成からスタート
京都府北部の丹後地域は、長年、織り機の大きな音の中で仕事をしてきたことが影響しているのか、耳が聞こえづらいお年寄りが多いのではないかと言われてきたそうです。10数年前に社協(旧加悦町社協)が開催した「耳のことなんでも相談会」では、聞こえづらいために、「会話が一方通行になってしまうことが苦痛で外出しなくなった」、「家族にも”どうせ話しても分からない”と無視されてしまい辛い」、「障害者手帳は持っていないので、支援が受けられない」――。そうした悩みが多数寄せられました。「同じ悩みを持つ者同士が集まれる場が欲しい!」という切実な訴えに応える形で、耳みにサロンは始まりました。
とはいえ、当初は要約筆記ができる人も少なく、実施できたのは年3回のみと限られていました。それでも、利用される方からの要望が高く、開催回数を増やすことができないか、と社協がスタッフ養成を兼ねた要約筆記講座を開催したところ、受講修了者7人全員がボランティアスタッフとなることを表明。以降、毎月1回、ボランティアスタッフの自主的な運営による開催が実現できています。2月のこの日のお楽しみプログラム(バルーンアートの体験)では、ボランティアスタッフが講師、ホワイトボードでの記録係、要約筆記に分かれ、抜群のチームワークで参加者の笑顔を引き出し、終始にぎやかな時間が流れていました。
壁を乗り越え12年 参加者との絆が継続の糧に
聞こえづらいといっても、人によって聞こえる状態はさまざま。サロン内では、参加者の補聴器を補助する専用マイクを使用して進行していますが、それでも聞こえづらい方には、話した内容や状況を要約筆記で伝えていきます。「このサロンでは何度聞き返しても大丈夫だから、安心して本当に楽しく過ごせる」、「今までは話すのが苦手だったけれど、ここに来るようになって自信がついた」といった参加者からは喜びの声が聞かれます。
ボランティアスタッフの大江京子さんは、「私たちは普段、ヘルパーや塾講師など仕事をしています。日程調整が大変で、当初はうまく進行もできず、慣れるのに3年かかった」と振り返ります。スタッフ仲間は、全員が仕事を持って働いている女性です。有給休暇やシフトのやりくりなどをして、ボランティアで毎月サロンを開催しています。「みなさんが私たちに期待や信頼を寄せてくださるので、続けられています」。笑顔の背景には、参加者とボランティア仲間との深い絆があるようです。