歴史あるお寺がみんなの第二の我が家!ころ柿カフェへようこそ
住宅街の中にたたずむ妙楽寺。煎茶を広めた永谷宗円の資料も保管されている歴史あるお寺から聞こえてくるのは、楽しそうな話し声。
その声に誘われるように一歩足を踏み入れると、お香の柔らかな香りが広がる。
「おはようございます!」と挨拶をすると、こちらに顔を向け「おはようございます!こっち来てみい」と優しい声が返ってくる。
部屋にあがると、畳の上には、こけしや古いカメラの部品、陶器など数々の骨董品が広げられ、その周りに人の輪が出来ていた。
それぞれ気になった骨董品を手に取り、「綺麗なお皿やね~」「私にも見せて」など会話が飛び交う中、一人の男性が、長方形の木で出来た箱のようなものを持ちながら「これが一番気に入ったわ!これ、枕らしいで!」と言って、畳の上に寝そべり、みんながその様子を見て笑う。まるで家族のようなあたたかな時間が流れていた。
「ころ柿カフェは第二の我が家みたいなものです」と笑顔で話す今西良枝さん。続けて、「ここに来ると自分の思いを自然と外に出せる。見守られている安心感があるんです。」と話され、向かいに座っていた中井則男さんも「なごやかに話せて、気を張らない場所です。」と、この場所の良さを教えていただいた。
そして、「枕が気に入った!」と話していた男性、茨木輝樹さん。茨木さんは「宇治田原町の歴史を語る会」副代表をつとめ、この町に住む人やくらしについて、とても詳しい地元の有名人。「今日もみんなの顔を見られて良かった。『こんなことがあってね…』とみんなで話すのは楽しいな。」と笑顔で話された。
「たくさんのおじいちゃん、おばあちゃんを幸せにしたい。」〜ころ柿カフェにこめた思い〜
人と人がつながる、我が家のような場所、ころ柿カフェ。
このカフェを立ち上げたのが、木下利恵さんだ。
介護する人の話に耳を傾け、必要な情報を届ける「お節介士」をはじめ、介護福祉士、認知症キャラバンメイト、ケアマネージャーなど多くの資格を持つ木下さんは、「たくさんのおじいちゃん、おばあちゃんを幸せにしたい」という強い気持ちを持っている。
「スーパーに買い物に行った時、ベンチに座るおじいちゃんやおばあちゃんが、たくさん居ることが気になっていました。昼間に出かける場所が無く、ゲームセンターなどに居る高齢者の存在も知り、安全でぷらっと立ち寄れる場所があったら良いな…と思い、社協に相談したことが始まりです。」と活動のきっかけについて、教えていただいた。
木下さんと一緒にころ柿カフェを運営している大辻恵子さん。大辻さんは元役場職員。退職後、実家の商店を手伝っている。昼間、お店に来る高齢の常連さんが「誰とも会わへんから、ここに来ている」と話されたことから、居場所作りに関心を持ち、木下さんの活動に参加したのがきっかけとのこと。ちなみに、先ほど広げられていた骨董品は、会話のきっかけ作りとして、大辻さんが骨董市から買って来たり、友人から借りてきたものだと教えていただいた。
みんなと一緒に創ってきた「何でもできる場所」〜ころ柿カフェのあゆみ〜
「何もしないのが売りなんです。ぼーっとする、おしゃべりする、何でもできる場所がころ柿カフェ。クイズの本を持ってくる方や、野菜の作り方を教えて欲しいと言われる方など、ここに来る皆さんと一緒にこの場所を創ってきました。人と人がつながるこの場は、違う地域からやってきた私自身の居場所づくりでもあるんです。」と話す木下さん。
最初は、立川平岡地区にある古民家「みんなの家」から活動を始めたころ柿カフェ。現在は、郷之口地区にある妙楽寺、湯屋谷地区にある宗円交流庵「やんたん」でも、毎月1回活動している。また、地域子育て支援センターでは、「セルフ!ころ柿カフェ」と題し、活動日を限定せず、お茶セットを常設し、いつでも集える場となっている。
活動場所が広がったことから、子どもから子育て中のお母さん、90歳を超える方まで幅広い世代が身近に集える場となっている。
「皆さんと一緒に創ること。」このことが共感を呼び、活動が広がっているのではないかと感じた。実際、ころ柿カフェに来る人は、口コミや友人の紹介が多いらしい。
あなたも家族の一員になりませんか?
ころ柿カフェにいらっしゃい!
やってて良かった!と思う瞬間は、「忘れずにころ柿カフェに来てもらえること。もし来なくても『あの日は予定があって来れへんかったんや!』と言ってもらうと、その方のライフスタイルの一部になっているんだなぁと感じ、嬉しく思います。部屋にこもっていた方が来てくれた時も嬉しかったですね。居場所づくりと情報交換の場づくりができていると感じた時が何より嬉しい瞬間です。」と笑顔で話す木下さん。
今後の目標について尋ねると「ニュースで流れる孤立死や使える制度を知らずに自ら命を絶つ人がいない世の中にしていきたい。」と木下さん。「暑さに悩んでいる声を聞き、役場に熱中症対策の話をしにきてくれないか?と相談したこともあります。一人ひとりの思いを受け止め、つなぐことを大切にしたい。」と大辻さん。カフェの机の上には、大辻さん手作りの和菓子をはじめとするたくさんのお菓子に加え、役場の情報誌なども所せましと並んでいたのは、お二人のそんな思いの表れかもしれない。
地域の人に発信したいメッセージについて、木下さんは、「もっとオープンにして欲しい!一人だけで悩まず、話しづらいことならこっそり教えて欲しい。自分自身の幸せを考えてもらえたらいいな。『楽隠居』はせず、どんどん外に出て活躍してもらい、そしてこの場所にも来てもらいたい。」と柔らかな表情で話された。
取材中、偶然、観光客が妙楽寺にやってきた。
「いらっしゃい!はじめまして!」そんな挨拶が自然と生まれる。
気軽に話せる関係づくりを大切にしていると話されていた木下さん。
我が家に帰ってきたような、あたたかい言葉が自然と溢れる、家族のような関係。
ころ柿カフェからそんなあたたかな関係が広がっていってほしい。