柔らかい陽ざしが差し込む店舗の一角のお部屋から、優しい声が聞こえてきます。「じゃ最初は、体操から行きましょうか」との呼びかけに笑顔が弾けます。ここは南丹市日吉町。「いきいきオアシス日吉」と名付けられたこの場所には、保険薬局、コンビニ、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、コミュニティルームなどが「同居」しています。このコミュニティルームを活用して月1回開催されるのが「ひよしのまちカフェ」。いわゆる「認知症カフェ」といわれる場所です。
こんな声があふれています
取材させていただいた日は南丹市社協が運営の担当でした。体操はボランティアの先生が笑いを取りつつ、皆さんと身体を動かそうと奮闘します。面白いかけ声に逆に手足が止まってしまうこともあります。「すごいですね、そんなに動かせるんですか」「ちょっとずつ皆としたから動くようになったんや」ギターの伴奏とともに皆で一緒に歌声を響かせます。「この歌知ってますか」「いつもお上手ですね」「そんなことないわ」「よく声が出てはります」などと歌いながらもにぎやかです。楽しさが伝わってきます。
体操、ギターの伴奏での合唱のあとに茶話会。茶話会もコンビニ併設のメリットを活かしてお茶、コーヒー、紅茶、スムージーなど約20種類から選べます。参加者の皆さんにお話しをうかがうと、「人は少ないけど鹿は毎日来るで」「猿がせっかくできた栗を全部食べてしまう」「孫が来ると広告の紙で箱を折ってくれるんや」明るく元気な声でかえってきます。それぞれが思い思いにおしゃべりなどを楽しみます。
「ここに来るのが楽しみ。冷蔵庫にチラシ(次回の予定)貼っているよ」ご夫婦で仲良く来られて楽しみにしていただいている方もおられます。なかなか合うデイサービスがない認知症の方は、毎回お迎えに行くと「あれこれ」あるものの、来られてゆったり過ごされています。もちろん帰る時は笑顔です。
多様なひとが作るカフェ
このカフェは、緩やかな実行委員会の形で「多様な職種が連携する場」を意識して創られてきました。薬局、介護事業所、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、南丹市社協など多様な団体が実行委員会を組んでおり、毎月の運営は各メンバーで交代しながら行っています。そのためプログラムも多彩。団体の得意分野を活かしています。健康体操、大きなサイコロを使ったワーク、大型のジェンガなども活用します。時には近くの大学の軽音楽サークルの演奏もあります。「学生の軽音楽サークルと高齢者の方は合いますか?」と尋ねると「参加者層に合わせて練習してきてくれて『上を向いて歩こう』や『涙そうそう』など参加者の皆さんに合った演奏をしてくれましたよ」と、このカフェの立ち上げから相談を受けた南丹市社協の西川由理さんは話してくれました。運営だけではなくプログラムのなかにも多様な人たちが関わります。カフェまでの送迎が必要な方には、地域の社会福祉法人が地域貢献という無償の形で担っています。
また、来年度からは民生委員さんが実行委員に加わってくださることも決まっています。地域のことをよく知る方の参加で、カフェがより広がりのあるものになることでしょう。
誰もが気持ちの良い居場所を目指して
最初は「そもそも何やっていいのかわからない。すべてが手探り、手作りの場でした」とのこと。店舗の一角を使うことは決まっていたものの、「誰が」「どのように」「なにを」するかは「白紙状態」でした。
話し合うなかで、これまでの南丹市にはないような認知症カフェをしようということになり、まずは皆で勉強から始めました。その中で、「オレンジ」(認知症理解を広げるオレンジリングのイメージ)や「認知症カフェ」を看板に掲げないことにしました。「いかにも認知症の方の居場所」というイメージがあって、地域福祉の立場から言えば「そう見られない」ようにしたかったそうです。「皆が参加できる、誰もが気持ちの良い場所を目指せば、認知症の方に限らず居心地が良いはず」そんな思いで作られています。
これからも参加する皆さんとともに作っていく
「さようなら」「ありがとうな」帰り際も明るい元気な様子です。「来月あるしな」「またね」の声。ある3人の参加者を社協職員が追っていきました。「来月から参加者の席案内をお願いしたいです」。お願いされた方達は笑って受けてくださいました。3人の方は近所の比較的お元気な方で、参加するだけでなく役割を担ってもらえないか、また少しお手伝いが必要な方との接点を作れないかと考えてのことだったそうです。
カフェの後の実行委員会では、委員会のメンバーやオブザーバーの方達の今後の話合いをされています。「参加する時間が1時間半は少し短い。談話する時間を長くとれないか」「認知症のことなどを相談する時間を並行して設けられないか」「認知症のある方とそうでない方が分かれてしまいがち。席を決めてはどうか」「ケアマネジャーとどう連携していくか。本人のニーズに応えていきたい」
これからも地域の方の思いに合わせて、多様なひとと形を変えながら、その時々の居心地の良い場所が作られていくのではないでしょうか。そんな期待が持てる風が吹く「ひよしのまちカフェ」だと感じます。