パシ!ピシ!パシ!軽やかにボールが跳ねる音が響く。久御山町下津屋、廻りには田んぼや畑が広がっている音の先は、元々店舗として使われていたお家。
「店主」の梅川茂元さんは30年程前に食料品やお酒を扱う地域のお店「ショップウメカワ」を開店され、下津屋地域の暮らしを「食」で支え続けてきました。しかし、周りにコンビニやお店ができ始めたため、約7年前にお店を閉められました。今回の舞台はこのお店の後を再び活用された地域のつどいの場です。
「閉店」から「開店」へ
お店だった場所には今は卓球台が1台。壁には梅川さんの趣味でもある野鳥の写真や絵、書が所狭しと飾られています。
お仲間が卓球されている「店内」でお話しをうかがいました。
卓球台はいつ頃買われたのですか?
―お店閉めてすぐの時やから7年前かな。びっくりするほど安かったで。と屈託のない笑顔で話されます。
なぜ、卓球だったのですか?
―自分が後期高齢者(75歳)になって、この先どう生きようかと考えた時に、「心がいきいきしていないと体が動かなくなる」と思ったのがきっかけかな。
―ラージボールの卓球*は知らなかったんや。友達に教えてもらって始めたんやで。
―それから、「ヒマはない」ようにしたかったこと、そしてなにより、地域の皆さん向けに商売していたからその恩返しやね。繋がりのお返しをしたかった。
*ラージボール卓球とは
(公財)日本卓球協会とニッタクのコラボレーションによって、1988年にスタート!初心者でも高齢者でもすぐに楽しめるようにという発想から始まりました。硬式(40ミリボール)よりもラリーがたくさん続きます。ボールの回転数も少ないため、初心者にも最適です。
ニッタクHPより https://www.nittaku.com/largeball/01.html
活動は卓球
久御山町社協では平成26年度から「誰でもサロン活動支援事業」を展開されています。これは、地域福祉会ごとに開催しているいきいきサロンや、自治会ごとで開催しているふれあいサロンとは違い、「誰もが年齢に関係なく気軽に」集える場を増やしていきたいという目的で支援しています。梅川さん宅での「誰でもサロン」は卓球サロン。
参加者の皆さんからは「卓球するのは初めてやったけど、はまったわ」「近くでわいわい楽しい」「町の卓球クラブでもやっているけど、ここは少人数でしゃべりながら和やかなのがいいわね」との声。話される皆さんからの額にはいい汗が光っています。参加費は100円。空調の電気代などに充てています。
最初は軽い打ち合いだったのですが、体が温まってからは試合形式に。皆さんの表情も試合モードに。「ピンポン」から「卓球」に変わります。このメリハリも健康維持にとってはいい効果があるのかもしれません。日ごろは高齢の方が中心ですが、時には地域の子どもたちもやってきます。「卓球しているのが外から見えるからかな~。宣伝してないけど子どもたちも来るよ」。子どもたちと一緒に笑って卓球をしている写真を見せていただきました。毎週欠かさず開けているから、こんな繋がりも生まれています。
取材に伺った私たちもラケットを握らせていただきました。「ナイス!」「ドンマイ!」「こんな風にしたら」など前向きな声援が飛び込んできます。皆さん本当に褒め上手。楽しさを実感させていただきました。
誰でもサロンのメンバーで年に1回は会食会を開くとのこと。「これも楽しみなんや」皆さん口々におっしゃいます。このサロンの魅力を聞くと、「おしゃべりだけでなく身体を動かせること」、「雨でも暑くても集まれる場所があるのが良い」「行こうかなって思える場所」という言葉があふれます。こうして4年間みんなで集まって続けていることは、皆さんの暮らしの中で大きな楽しみや力になっていると感じました。これからも続けていきたいと梅川さんはにこやかに言われました。
地域のなかに「居場所を作ろう」「サロンを作ろう」という動きができてから、この間、多くの居場所ができてきました。久御山町社協の「誰でもサロン」はまさに「誰でも」気軽に参加できる居場所です。取材の時もお隣の地域から来る方もおられました。集会所などの公的な場所とは異なり、店舗だった場所を会場にすることで、より一層「誰でも」が浸透しています。自宅を開放して地域の居場所にする取り組みは「住み開き」ともいい、集える場所が少ない地域では新たな手法として注目されています。また、いわゆる「空き店舗」の活用は商店街活性化策として各地で広がっています。今回取材させていただいた「ショップウメカワ」はその両方の要素を組み合わせたが素敵な実践だと思います。