誰もが安心して暮らせる地域づくりに取り組む綾部市で始まった住民自らの力で動かす「だんないカフェ」(初期認知症カフェ)の取り組みが全国的に注目を集めています。
相談の前倒し“出会いの場”を提供
沿道の雪どけ間もない1月中旬、「だんないカフェ」の会場に、タンクを積んだ社協の訪問入浴車が大量のお湯を運んできました。本日の目玉イベントは、“足湯”の出前。「この日を楽しみにしてきた」というお年寄りも多く、90歳になる四方藤一さんは「まるで旅行にきた気分。心が晴れるようやねぇ」と目を細めます。“だんない”とは、綾部の方言で「なんともない、大丈夫」の意味。初期の認知症が疑われる人から一人暮らしのお年寄り、誰とも繋がらず家に閉じこもりがちな人などを対象に、医療や介護の専門職と“できるだけ早期につながる”ことができる場として2014年1月よりスタートしました。開催は、市内3地域で1月に計4回。足湯の出前や音楽タイム、喫茶といったお楽しみプログラムはもちろん、地域包括支援センターの保健師による血圧測定や、認知症疾患医療センターによる相談等が行われます。参加者に「専門職は身近にいて気軽に相談できる相手」であることを知ってもらい、お互いが「顔見知りの関係」となるよう工夫されています。
計画的なサポーターの養成気づきから「カフェ」の誕生へ
綾部市の「認知症サポーター」は8,322人。総人口に占めるサポーター数の割合(市域のみ)は全国第3位を誇り、さらに対人援助の基本などの独自カリキュラムを加えた「シルバーサポーター」は2,092人、「ゴールドサポーター」は331人(2015年3月現在)。サポーターの多くは、各地の「地域サロン」「出前足湯」「出前型サロン」などでボランティアとして活躍していますが、最も活動しているのが「傾聴ボランティア」。家に閉じこもりがちになった方やひとり暮らしのお宅に訪問し、日々の生活や悩みに耳を傾け、気持ちを受け止めて聴くこととで、元気や自信、生きる意欲を取り戻してもらうことを目指しているボランティア活動です。その活動の中で多くのサポーターが「食事をしていない」「入浴もできていない」「足の踏み場がないほど家が散らかっている」「心身状況に不安を抱えている」等のお年寄りの暮らしぶりを目の当たりにして、「傾聴からあと一歩踏み込んだサポートができないものか」というもどかしい思いを社協に報告。これが社協のホームヘルパーや各地域包括職員、他部門の職員等が気掛かりとしていた問題意識と一致し、具体的な解決のための取り組みとして生まれたのが、この「だんないカフェ」なのです。
ボランティアの底力みんなが楽しむ
「足湯に浸かるとね、皆さん心もほぐれて舌も滑らかになる。傾聴もしやすいんですよ」と足湯ボランティアの林ことりさん。参加者とほぼ同数のボランティアが「だんないカフェ」を切り盛りし、利用者が一人きりにならないよう常に目を配ります。また、古和田一二三さんは、「一対一で向き合う傾聴ボラもいいけど大勢で和気あいあいと触れ合えるのがだんないカフェのよさですね。私らも楽しい」といいます。カフェを始めた当初は5人だった参加者が、今では毎回平均で15人を超えているのもボランティアの尽力があってこそ。日頃の傾聴ボラで信頼関係を築き上げ、粘り強い声掛けで“地域の気になる人”の参加を促しています。「初期認知症の方が専門機関につながる場」「ボランティア自身が生きがいをもって社会参加する場」「認知症に対する正しい理解のための啓発の場」等と「だんないカフェ」の場の意味・意義はますます多様になっており、活動の深まりをみせています。